アートフェア東京で感じたこと
アートフェア東京に見るアート業界全体の課題
アートフェア東京に行ってきた。
かつてはエネルギーに満ちたこのイベントも、今年はどこか物足りなさを感じたという人は多い。
SNSを覗けば「活気がない」という声が目立つが、これはアートフェア東京だけの問題ではない。
むしろ、これは日本のアート業界全体が抱える課題が、たまたまこのイベントに表面化しただけなのだ。
会場を歩くと、来場者の数は以前より少なく、海外からの出展ギャラリーも減っている。
外国人コレクターの姿はほとんど見当たらず、「インターナショナル感」は影を潜め、「ローカル感」が強まっていた。
どこか見覚えのある展示ばかりで、「攻めた」作品はあまり見かけない。
すでに知られている作家の作品が中心で、生存戦略のために着実に販売を狙ったような展示が多い印象だ。
このようにアートフェア東京の課題を列挙するのは簡単だが、それでは問題の本質を見誤る。
実は、欧米やアジアのアートフェアでも似たような現象が起きている。
現代アートのグローバルなマーケットが活気を失い、特に規模が小さい日本では、その影響が露骨に現れたというだけの話である。
「これまで通り」の限界
アートフェア東京の現状は、むしろ日本のアート業界全体が「これまで通り」のやり方を続けてきたことの結果だろう。
マーケットが厳しいことは誰もが気づいているのに、新しい対策が打たれた形跡はほとんど見られない。これが問題なのだ。
どんな業界でも、市場が縮小し始めたときには、新しい販売モデルに挑戦したり、異業種と手を組んだりといった工夫が見られるものだ。
だが、アート業界ではそうした動きはほぼ見られない。
個別のギャラリーの行動量が増えない限り、マーケットは動かない。むしろ、縮小していく様子を傍観しているように見える。
結局のところ、「これまで通り」に固執しすぎて、次の一手を打てずにいる。それがアートフェア東京に限らず、日本のアート業界全体の問題だ。
海外市場への逃避は危険
「国内市場が厳しいから」といって、すぐに海外に目を向けるのは賢明とはいえない。
国内で十分に戦えなかったギャラリーが、より競争が激しい海外で勝てる保証はどこにもないからだ。
実際、海外のマーケットも決して順風満帆ではなく、むしろ強風が吹き荒れているのが現状であり、その中で存在感を示さなければならないのだ。
ストーリーの力で市場を動かす
こういうときこそ、無駄な出費は控え、頭をフル活用すべきだ。
必要なのは、作品を通して新規顧客の心を揺さぶるストーリーである。
アートを買うという行為は、初心者にとっては実は相当な勇気がいる。だからこそ、「投資的なアート」としての期待感だけでなく、「ずっと推していけるアート」であることをアピールすべきだ。
アート作品にストーリーを持たせるというのは、ちょうど映画の脚本を書くようなものだ。
売れないと嘆く前にやるべきことは、作品一つ一つに魂を吹き込むこと。
コレクターたちが「欲しい」と思うのは、作品そのものだけではなく、その背後にある物語に心を奪われたときだ。
心の琴線に触れるストーリーをコツコツと積み重ねることが今こそ求められている。
アート業界と異業種の交差点
アートフェア東京で、今年はひときわ目を引く展示があった。
NAO MASAKI Galleryでは、有名デザイナー、マルタン・マルジェラがアート作品を出展していたのである。
ファッション業界に詳しい人なら、この名前を聞いただけで胸が高鳴るだろう。
マルジェラといえば、ファッション界でカルト的な人気を誇り、その独特な美学で一時代を築いた存在だ。
しかし、残念なことに、日本のアート業界ではその名前はまだ「知る人ぞ知る」といったところ。
SNSでも大きな話題にはならず、「どうしてこれがもっと注目されないのか」と首をかしげたくなるような状況だった。
ファッションとアートの垣根を超えたコラボレーションは、新しいマーケットを切り開く力を持っている。
事実、パリではアートとファッションが一体となった展示が増えており、それが話題を呼んでいる。
マルジェラのような存在がアートに参入したことは、日本のアート業界にとっても「これまで通り」から脱却するヒントが隠されているのではないか。
異業種コラボレーションの可能性
実際、アート業界が縮小している原因のひとつは、他業界と比べてあまりに「閉鎖的」であることだ。
ファッション業界、音楽業界、テクノロジー業界は、どれもグローバルな市場で戦いながら、異業種とのコラボレーションを積極的に行っている。
例えば、ストリートブランドとアートのコラボによって若者層を取り込み、音楽とアートを融合させて新しい市場を創出するなど、異業種との連携が新たなファン層を開拓しているのだ。
アートだけが「孤高」の存在であり続ける必要はない。むしろ、他業界と交わることでアートの新しい魅力が引き出されるはずだ。
アートとファッション、アートと音楽、アートとテクノロジーが交差する「場所」を我々が意識して準備していく必要を感じている。
2025年3月14日(金) ～ 4月5日(土)
営業時間：11:00-19:00 休廊：日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション：3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
会場：tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
